読書85 もうダマされないための経済学講義

 もうダマされないための経済学講義 光文社新書
 若田部昌澄

 貨幣供給量を増やせば、インフレ期待が生じ、結果的に経済成長するというのが著者の主張です。
 過去にデフレを経験した社会は歴史上何度もありました。例外なく、デフレを脱した決め手は、インフレ政策だったと。金本位制が廃止されたのもデフレが原因なのだそうです。金本位制とはマネー量が金の保有量に連動する制度なので、貨幣を自由に刷ることができない。だから、金本位制を廃止することで貨幣の供給量が増やせたというのが根拠です。

 ただ、その前提に必要なものが何なのか。貨幣供給量を増やせば経済成長する前提があるはずです。過去と現在とではその前提は異なる。
 さらには、経済成長と社会の豊かさは別だと思えます。たぶん、経済成長を求めるには豊かさを犠牲にしなければならないと思います。これだけ豊かな今の日本で経済成長へのインセンティブが働くのか。

 それより、この本の収穫は、経済学は、なぜ経済成長が起こるのか、過去の日本の高度成長でさえはっきり説明できないといいます。なるほど納得です。
 そうするとしかし、経済学とは何なのでしょう。

 P74
 それでもわからないことは残ります。
 何が経済成長をもたらすのかは依然として謎です。「してはいけない」ことのリストはある程度までわかっていますが、「これをすべし」という処方箋をだすたびに、新しい問題が生じる。

 P121
 日本の経済成長には、まだわかっていないことがいくらでもあります。
 日本の成長率は、田中角栄の時代にガクンと落ちます。だいたい八〜一〇%ぐらいだったものが、四〜五%になる。落ち方が非常に急で、しかも半分ぐらいまで落ちた。
 それが、田中角栄のせいだけだろうか、という問題があります、さまざまな規制が経済成長率を下げたのは事実ですが、このときに急激に下がったのは、もっと違う理由があるのではないか。