貸付事業用宅地の3年縛り事例あれこれ

 平成30年改正で、相続直前に小規模宅地特例を利用するための駆け込みの貸付物件の取得に規制がかかった。改正後は相続開始前3年以内に取得した貸付物件は、貸付事業用宅地等から除外される。

 具体例はこうだ。父親は余命宣告されたので、相続税対策を意識し、新規で始めたアパマン業だが、開業から1年で亡くなった。物件を相続した母は3年縛りによって貸付事業用宅地等の50%減額は使えない。駆け込みによる小規模宅地特例の利用を防止するのが改正の趣旨だ。

 ここで疑問が生じたのが相続による取得の場合。つまり、妻も、夫の相続後1年で亡くなってしまったとする。物件を相続した息子は貸付事業用宅地等の50%減額は使えるのか。

 これについては翌年の平成31年改正で手当てされた。相続により取得した宅地は3年縛りの対象外とする(措令40の2⑨、⑳)。つまり新たに始めた賃貸物件が短期間の相続で承継された場合、1次相続ではもちろん3年縛りの規制があるが、2次相続では減額可能ということになる。

 なぜかというと、夫は自分の相続での節税を意識して物件を取得したのであって、短期間に2次相続まで起こることを意識して物件を買ったわけではないからだ。妻自身は節税行為に関与していないし節税のために死亡したわけでもない。したがって、新規購入から3年以内に1次・2次の相続が起きても、2次相続では貸付事業用宅地等の特例が適用できる。

 さらなる疑問を掘り下げてみる。妻の土地に、夫が新築して開業した貸付事業。まず開業後1年で夫が亡くなり、妻が建物を相続したが、妻も1年で亡くなった。この場合は2次相続で小規模宅地特例は使えるだろうか。というのも、妻は夫から宅地を相続したわけではない。相続したのは建物だけだ。政令は、貸付事業用宅地が短期間で2次相続まで承継された場合を救済しており、1次相続で承継されたのが建物の場合は2次相続を救済する直接の条文がないのだ。

 これについては2つの説が考えられる。一つは条文の文言どおりに解釈し、救済はないというもの。したがって妻は夫から建物を相続した時から貸付事業を開業したことになる。そうすると2次相続では3年縛りが発動することになる。

 しかしここは、第2説だと解釈すべきだ。つまり、相続による取得にはいかなる場合でも3年縛りの適用はないという考え方だ。相続による取得は、購入や新築による取得とは違う。解釈上それは当然のことであり、措令40の2⑨、⑳は当たり前のことを確認した規定にすぎないという立場だ。だから土地が連続で相続された場合だけでなく、1次相続が建物のみ、2次相続で土地建物が相続されたときでも、2次相続では貸付事業用宅地等の減額が適用できることになる。

 そのように考えないと、妻の土地に、夫が建物を建てて30年間営んできた貸付用建物を妻が相続し、その妻が3年以内に亡くなると、子どもは貸付事業用宅地等の減額ができないことになってしまう。これは不合理だ。妻は夫の経営期間を承継すると考えるのが素直だろう。