読書72 医療法人ものがたり

 医療法人ものがたり ECブックス
 田中重代(日本医療法人協会参与)
 現在の医療法人への優遇税制と課税のゆがみが本書が語る歴史で理解できました。非営利を理由とした相続税の負担軽減への運動と、同族経営を手放したくないという権利を維持する運動という矛盾をかかえながらの戦後の歴史です。
 非営利を理念とする医療法人に持分があるのはなぜ。
 …… 戦後の国民皆保険制度の普及には、公的機関だけではとても無理だった。民間の医療法人が必要だった。持分なしでは、法人化は普及しないだろうと厚生省は考えた。
 配当できないのに持分が存在する結果、相続税負担が事業承継最大の問題になった。
 …… 相続税負担を免れるための財団医療法人の設立が続出。それが相法66条4項の創設に繋がった。
 出資額限度法人が提案されたのに、課税関係が中途半端なのはなぜ。
 …… 昭和46年の三者会談を受けた税制改正の機会を、会長選挙の内輪もめで、みすみす潰してしまった。
 そこで採用されたのが、せめて医療法人の出資持分の評価を下げる方策。
 …… なるほど。だから医療法人に類似業種比準方式が認められたのだ。
 中途半端なまま放置された出資持分の問題が顕在化した。
 …… それが2つの八王子事件だ。
 消費税の非課税は医療業界最悪の選択
 …… 主税局は何度も説明した。本当に非課税でよいの。損税が生じるよと警告した。医療業界がそれに気付き、解消を要求するが遅かった。主税局に言わせれば「何度も言ったじゃない」。
 第五次医療法改正で持分のある医療法人の新設が認められなくなった。
 …… 現在の地下1階法人(持分あり医療法人)の9割以上は持ち分なしへの変更を予定していない。課税問題は未だ未解決のまま。