読書74 誰も書かなかった厚生省
誰も書かなかった厚生省 草思社
水野肇
筆者は、戦後の日本の社会保障史の生き証人です。
日本は決定するリーダーがいないといわれるが、だからこそ実は何でもアリの国。
官僚を絶対悪と見る現在、役人の誠実さと良心だけが頼りです。
医療費抑制ありきは何の解決にもならない。しかし、筆者にもこれからの社会保障の解決方法は見つかっていないように思えました。大変な時代です。
P59
日本に社会保障が定着し、すべての国民がその恩恵を受けることができるようになったのは、やはり自民党の功績といわざるをえない。保守政党がイニシアティブを取って国民皆年金・皆保険を達成したのは、ひょっとするときわめて「日本的」なのかも知れない。日本の政治は「なんでもあり」という面が強い。だからこういうことも起きたのだろう。
P80
私は厚生省の審議会の委員を約四半世紀務めたが、最も信頼できる役人がやはり中野だった。アタマは格段に切れる。役人は予算折衝で大蔵省主計局と交渉するが、中野が主計局へ行くときには、主計官は徹夜で勉強したという。頭が切れるだけでなく、行動も俊敏だった。間髪を入れずに動く。いつも「国のために働いている」という意識を強く持ち、それは清々しいほどだった。
(略)中野はよき時代の最後の官僚だったといえるのではないかと思う。おそらく、今後はこのタイプの役人は出てこないのではないだろうか。
P84
中野が和解に向けて尽力している間、局長会議をはじめ、いかなる場でも「中野、大変だな、がんばれよ」と声をかけた者は一人もいなかった。多くの役人は「中野ならやるよ」と思うだけで励ますことはなかった。
P167
どうして優秀といわれた吉村仁の「弟子」だちが次々と事件を起こすのかということである。平成十六年、日本歯科医師会からの収賄容疑で逮捕された下村健も吉村の弟子で、彼もまた腕の立つ役人だった。優秀さと犯罪がまるで背中合わせに存在してしているように見える。この三人は「快刀乱麻」の間のある役人だったように私の目には映っていたのだが……。