読書75 私、社長ではなくなりました

 私、社長ではなくなりました プレジデント社
 安田佳生
 立派なオフィスがメディアで取り上げられ、社長が「千円札は拾うな」という本を執筆しベストセラーになったことでも有名なネットベンチャーが、民事再生法を申請するまでを綴っています。
 アマゾンの書評では評価が低い。こんなのが社長とは許せない、倒産まで金儲けにネタにするとはけしからん、と。これが世間の評価でしょうね。本来社長とはリーダーシップがあり、社会で何かを成し遂げることを使命としている人達であるべきだと。
 私はよい本だと思いました。
 会社が民事再生してなければ、この内容のままで、そのまま成功ノウハウ本になってます。つまり企業の成功と失敗なんて紙一重。自分のわがままを通した。それで成功すれば評価され、倒産すれば会社を私物化したと言われる。
 無茶する人達のなかから一握りが偶然に成功する。それが起業でしょう。こういう人達が社会には必要です。
 P45
 私がワイキューブで試したことの中には、成功したものもあれば、失敗に終わったものもある。いま振り返ればそれらのほとんどは、業界の巨人であるリクルートへのあこがれ、対抗心、虚栄心から生まれたものだった。
 P200
 会合の最初に話しをする。
 最後の締めの挨拶をする。
 しかも、気の利いた話しのひとつやふたつもしなければならない。
 話の内容を考えておかなければならなかったし、酒の席でも気軽に酔うことができなかった。
 あるいは、最終的な決断を迫られる。
 決定事項について説明する。
 結果に対して責任を持つ。
 たいていの物事には答えなどない。それでも考えて、決断し、会社の方向性を示すのが社長の役目だった。
 そういうことすべてから解放されたいま、正直ほっとしている。
 よく眠れるようになった。
 P204
 怒られるのを承知で言ってしまうが、私はこの二十年間を本当に楽しんだ。
 後悔も未練もまったくない。もう一度同じことをやってみろと言われたら、喜んでやってしまうだろう。
 最後の数年間を含めてつらかったこともたくさんあったが、そんなものとは比較にならないくらい私は人生を楽しんだ。
 大好きな人達に囲まれながら、大好きなオフィスで仕事する。これ以上の幸せがあるだろうか。
 そもそも会社は寂しさを埋めるところではなく、仕事をするところなのだ。そんなことはわかっている。
 もちろん、オフィスや社員で寂しさを埋めるなどという行為は間違っている。社長として間違っているばかりではなく、男としてもイケてない。弱すぎる。
 だが、我慢できなかった。会社は仕事をするための場所なのだと、割り切ることができなかった。