読書9 アホの壁

アホの壁
筒井康隆 新潮新書
 アホな人間についてだけでなく、自分の中にあるアホの壁、さらにはどうやってアホとつきあえばよいのか、色々な実例を出しながら論じている本です。
 たとえば、今のバラエティ番組のつまらなさについては、次のように分析している。なるほど、納得できます。私もバラエティ番組に感染された若者集団との会話は苦手。場の空気を瞬間的に読めることを自慢しあっているようではっきりいってつまらない。
「P45 居酒屋などに行き、何人かが集まって飲みながら話しているのを近くの席で聞かされることがある。たいていはまるっきりバラエティ番組を模倣したつまらない会話で盛り上がっていて、それは身内の悪口、同僚の失敗談、その話をしている者の言葉尻や言い間違いを捉えた冷やかし、その他その他である。
 そのつまらない話に爆笑で返すというのもバラエティ番組そのままだ。どんなつまらないことを言っても爆笑が帰ってくるのだから、喋る者にとっては答えられない。そこでますます盛り上がるのだが、しかしいずれの技術においてもバラエティ番組には劣っていて、つまらなさ、アホさ加減にはどんどん拍車がかかる。」
 こういう傾向が教育現場や政治の議論の場にまで広がったら大変だが、いつか飽きられるだろうからそれを待ちましょうとのことですが、まあそれしかないでしょうね。
 自分の価値観にだけ頼るアホとして、ある思想に感銘を受けて、すべてをその思想で割り切ってしまう視野狭窄型のアホについても論じています。一方で社会学者の宮台真司氏がいうように人間はあこがれの人に感染したときにこそ成長するものです。「あのひとのようになりたい。あの人ならどう考えるのだろうか、どう行動するだろうか」というよう「感染」は、ときに人を急激に成長させる。 
 両者の違いはなにか。
 年齢と共にアイデンティティが更新され、モラルを発達させているのかどうか、だと思います。