読書50 「反原発」の不都合な真実

「反原発」の不都合な真実
藤沢数希 新潮新書
 「反原発」に反論するため、原発推進に都合のよい議論に傾きがちな面はあると思う。しかし、それを割り引いても、著者の主張は正しいと思う。
 しかし今後新規の原発建設は不可能。とすると日本もアメリカのようになるのだろうか。
 さらにひと言で原発といっても最新鋭のものは安全性も高率も格段にアップしているし、研究は格段に進んでいる。
 今回の原発事故では原発自体は完璧に停止した。ミスは予備電源までは水に浸かってしまったこと。単純な人為的ミスというのが筆者の説明です。航空機などの大規模事故はそのほとんどが、単純ミスの連鎖。そして先人のミスを教訓として乗り越えてきた歴史こそが現在であるはず。
 どのように乗り越えるべきか。それは原発廃止ではないはずだと。
 P130
 「アメリカでは1979年のスリーマイル島原発事故以来、一基も原発が作られていない。あのアメリカでさえ脱原発をしたのだから日本も脱原発をするしかない」というようなことがよくいわれますが、これは事実に反しています。たしかにアメリカに原発が何基あるのか、と聞かれれば答えは104基で、スリーマイル島原発事故以来増えていません。しかし実質的な原子力の中身を見ると、まったく違う事実が見えてきます。
 実は、アメリカではスリーマイル島原発事故以来、100万kW級の原発でいうと、なんと50基分の原発の新規建設に匹敵するパワーアップを果たしているのです。既存の原発を改良したり、最新の設備に更新したりして、次々と出力の増強をしました。
 P154
 日本のような地震国では、自身そのものに対するテクノロジーはものすごく発達しています。東京ではあれほど超高層ビルが林立していますが、あの程度の自身ではまったくなんともありません。原子力発電所の設計でも、地震対策というのは、非常に注意深く行うので、そのように入念に準備しているリスクに対しては頑強なのです。むしろ手を抜いていた、予備電源の設置場所や、電源車のコンセントなどの、単純な設計ミスで足をすくわれたのです。
 P159
 実は、この核燃料サイクルには、すさまじいポテンシャルがあります。それは高速増殖炉というタイプの原子炉を実用化すれば、半永久的にエネルギーを生み出し続けることができるということです。
 高速増殖炉は、自ら使う以上のプルトニウムを、発電しながらウラン238を作り出す原子炉です。実は、すでに実験段階は終わっていて、実際の発電のためのテスト炉も稼働しています。
 P165
 先進国に住む人が一生の間に必要なエネルギーを全て原子力で補った場合に、ひとりが一生で排出する核廃棄物は、なんとゴルフボールたった1個分なのです。これぐらいの廃棄物は、現代人はそれこそ数分ごとに排出しています。原子力とはそれほど廃棄物が少ない技術なのです。
 P201
 放射性物質を含む冷却水の処理や、致死量を上回る放射線量が測定された原子炉建屋内の調査など、次から次に難題にぶつかっては、東京電力や、東芝、日立、三菱重工のような原発関連メーカーが必至で解決策を見つけ出そうとしています。そして、当初はチェルノブイリのようにコンクリートで埋め固めるというような、粗雑な自己処理をするだろうと思われたものが、現在では水素爆発でボロボロになった原子炉へ冷却水の循環を確立し、ロボット技術などを駆使して核燃料を取り出し、福島第一原子力発電所の1号機から4号機を正常に廃炉にしようという目処が立ちつつあります。日本では全く報道されていませんが、これには世界の原子力関係者が驚いています。