読書96 海賊とよばれた男

 海賊とよばれた男 講談社
 百田尚樹

 出光興産の創業者出光佐三の生涯を描く歴史経済小説

 売れているのがよくわかります。どの場面でも、必ず盛り上げて、困難を突破する主人公の人間力を描く起承転結がある。 
 近いうちに映像化されるのでしょう。

 現役の放送作家として人気テレビ番組を担当していることがページをめくらせるような文章を書く才能に繋がっているのでしょうね。

 軍部の要請で戦地に従業員を送り出し、何十人も戦死してしまう。自分には想像もつきません。戦争を経験した人は纏う空気が違っていたのでしょうね。

 明治、大正、昭和の時代の熱さとカリスマ経営者の熱さが文章から伝わってきます。
 30年後、平成はどのような空気感と温度で語られるのだろうか。

 P377
 鐵造が背筋を伸ばして敬礼すると、長谷川ははにかんだように笑いながらも、海軍式の敬礼を返した。それが鐵造の見た長谷川の最後の姿だった。
 一週間後、長谷川を乗せた海軍の輸送機は比島のクラークフィールド飛行場上空で、アメリカ軍の戦闘機により撃墜され、長谷川は従業員全員とともに戦死した。
 この知らせを受けた鐵造は男泣きに泣いた。
 自分の体の一部がもぎ取られたような苦しみだった。なっぜ、あのとき、長谷川をと引き止められなかったのかと激しい慚愧の念に苛まれた。この後悔はその後も長く鐵造を苦しめた。