読書15 分かち合いの経済学

「分かち合い」の経済学
神野直彦 岩波新書
 小泉元首相の経済政策とは、恐怖による経済成長なのだという。貧困への恐怖がインセンティブとなり、競争を生み、経済成長へつながるはずだ。それが格差の何が悪いという発言であり、負け組になるのはその人が怠惰だからだ、という発想につながる。
 恐怖による政治という視点でみれば、鳩山政権も同じだと思う。消費税増税もやむなしという議論がでてきたが、国民は将来の財政危機への恐怖感からもう増税でもなんでもしてくれ、という論調になっているように思える。
「P8
 新自由主義にとっての改革とは、『失業と飢餓の恐怖』を復活させ、それを鞭にして『経済活力』を高めることにほかならない。新自由主義を推し進めた小泉政権は、『改革なくして成長なし』をキャッチフレーズとしたが、その真意は『失業と飢餓の恐怖なくして成長なし』というものである。『改革なくして成長なし』とは、『貧困なくして成長なし』といいかえてもよいのである。」
 デフレの時代とは、物質的な所有欲をもとめる時代から、自我欲求、社会欲求を求める時代へと変わったことを意味する。それは人間社会の進歩だと。では、この変化への対応はスピードが大切なのか。否、立ち止まってでも方向性を考える確認作業だと著者は主張している。
 変化の曲がり角かどうかは後になってみないとわかりません。そしてわかったときには変化に取り残される。大切なのは常に現状を見渡してみることだと思う。
「P191
 あえて繰り返すが、新しい時代を形成しなければならない歴史の曲がり角で必要なのはスピードではない。歴史の曲がり角では、進むべき目的を間違えないように、車を止めてでも地図で目的地と現在値を確認する必要がある」
 知りませんでしたが著者は、政府税制調査会の委員だったのですね。今週、増税とは「分かち合い」であり、増税は成長の足かせにはならないという報告を行っていますね。