読書28 国際会計基準はどこへ行くのか

国際会計基準はどこへ行くのか
田中弘(神奈川大学教授)時事通信社
 時価会計には一貫して批判的な立場のようだ。「嫌い」という視点で論じられている面もあり、そこは割り引く必要がある。
 著者によれば、時価会計は、失敗の歴史だったと。1920年代の世界恐慌以来、経済危機が起こるたびに取得原価主義の弊害が叫ばれ、時価主義を導入したが、そのたびに失敗してきたという。
 今回の経済危機後は、時価主義の凍結が主張され、それに対しては批判的な声が多い。
 しかし、時価主義を導入した結果、とても時価など決められない複雑な金融商品サブプライムローン証券化がまさにそれ)を開発し、本当の価値を誰にも解らないようにして、大儲けした投機家に対しては、取得原価主義の導入が、まさに規制となるし、逆に過去の日本のように取得原価主義を利用した含み経営に対しては、時価主義の導入が含み益経営に対する規制となる。
 そう考えると、「時価主義=透明性の高い進んだ会計」あるいは、「取得原価主義=古い」というのは、単純化しすぎた見方だ。
 IFRSは、どのような形で日本に導入されるのだろう。全面強制適用(アドプション)は、ありえないだろう。イギリスで決まった改正を翌月から日本でも適用、などということは不可能。
 結局は、日本版にアレンジした形で導入され、それを「強制適用開始」と表現することになるのだろう。あるいは、適用自体が見送られたりして。